現在2018年12月20日7時15分である。
前回は、英語版と、日本語版の大教程と小教程の扉を、見たのだった。
日本語版のまえがきが、少し古いという話もした。
具体的に持ってくると、
日本語版大教程のまえがき。
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初版まえがきから
われわれは本書をてはじめとして,“理論物理学教程”の全巻を逐次刊行してゆくつもりである.この教程の最終的な計画は,いまのところつぎのようになっている:
1.力学
2.場の理論〔邦訳:広重徹・恒藤敏彦訳《場の古典論》,1964年,東京図書〕
3.量子力学(非相対論的理論)〔邦訳 佐々木健・好村滋洋・井上健男訳《量子力学(全2巻)》,1967,70年,改訂新版1983年,東京図書〕
4.相対論的量子論〔邦訳:井上健男訳《相対論的量子力学(全2巻)》,1969,72年,東京図書〕
5.統計物理学〔邦訳:小林秋男・小川岩雄・富永五郎・浜田達二・横田伊佐秋訳《統計物理学(全2巻)》,1957,58年,岩波書店〕
6.流体力学〔邦訳:竹内均訳《流体力学(全2巻)》,1970,71年,東京図書〕
7.弾性理論〔邦訳:佐藤常三訳《弾性理論》,1972年,東京図書〕
8.連続媒質の電気力学〔邦訳:井上健男・安河内昂・佐々木健訳《電磁気学(全2巻)》、1962,65年,東京図書〕
9.物理的運動学〔邦訳:井上健男・石橋善弘・柳下崇訳《物理的運動学(全2巻)》,1982年,東京図書〕
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であるが、1巻は良いのだが、2巻、『場の古典論』は、1978年10月30日に原書第6版が、出ていて、しかも、1984年11月に第7刷で、大きな訂正をしている。
さらに、4巻は、『量子電磁力学』という題名で、改訂するはずが、30年経っても、改訂版が出ない。
6巻は、英語版は、改訂されているのに、日本語版は絶版のままである。
8巻も、日本語版が、改訂されないまま、絶版になっている。
9巻は、実際には、『量子統計物理学』という題で、岩波書店から出版されている。
10巻は、『物理的運動学(全2巻)』として、東京図書から出版されたが、絶版になっている。
こういう古さが、伴っている。
さて、英語版のまえがきの続きを読もう
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The English translations of volumes 2 () and 3 () will shortly both have been published. Unlike those two, the present volume 1 has not required any considerable revision, as is to be expected in such a well-established branch of theoretical physics as mechanics is.
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訳すと、
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第2巻(場の古典論)と第3巻(量子力学)の英語訳も間もなく出版される予定である。それらの2巻と異なり、この第1巻は、力学という理論物理学の確立した部門に予想されるように、ほとんど大がかりな改訂は必要としなかった。
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となる。
あまり揚げ足取りをしても仕方がないのだが、
◯
✕
である。これは、本の題名なので、直さざるを得ない。
さて、続き。
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Only the final sections, on adiabatic invariants, have been revised by L. P. Pitaevskiĭ and myself.
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訳すと、
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最後の数節、断熱不変量についてのものだけを、L.P.ピタエフスキーと、私自身で、改訂した。
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この後も、英語版のまえがきは、まだ続くのだが、日本語訳の大教程のまえがきは、上でも上げた、『初版まえがきから』と、以下のもののみである。
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第3版まえがき
本書の第2版は初版とほとんど変わりがなかった.新しい版を準備するにあたっても,実質的な改訂の必要は認められなかった.したがって,本書の大部分は(誤植をなおしただけで)もとの紙型によって印刷した.エリ・ペ・ピタエフスキーの協力を得ておこなった書きなおしと追加は,断熱不変量を扱った最後の数節だけに限られている.
1972年6月
イェ・エム・リフシッツ
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一方、小教程にも、目を通しておこう。
こんなやっかいな本を、文庫で出すというのは、勇気のいることだっただろうと、思うのだが、いっそ、全10巻、文庫にしちゃったら? と、思わなくはない。
この本、
ランダウ=リフシッツ理論物理学小教程『力学・場の理論』(ちくま学芸文庫)
力学・場の理論―ランダウ=リフシッツ物理学小教程 (ちくま学芸文庫)
- 作者: L.D.ランダウ,E.M.リフシッツ,L.D. Landau,E.M. Lifshitz,水戸巌,恒藤敏彦,廣重徹
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2008/03/10
- メディア: 文庫
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この小教程では、まえがきの前に、『記号例』として、主な記号の使い方が、書いてある。
これは、大教程には、ないものである。
大教程では、様々な記号を使うから、表にできなかったのかも知れない。
私達も、大教程を中心に読んで行くので、ここで、記号を全部選んでしまうことは、避けよう。
さて、小教程のまえがきは、
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まえがき
扱う範囲を厳密にしぼろうという著者の試みにもかかわらず,この理論物理学教程は版を重ねるごとにその内容が増大してきている.これは,科学の急速な発展の自然かつ不可避な結果である.その結果,本シリーズは専門的な理論物理に向かうわけではない一般の学生のための教科書としては不適切になってしまった.
この状況のなかで,先年,破滅的な自動車事故に遭遇したレフ・ダヴィドヴィチ・ランダウは完全教程を基礎として理論物理の小教程をつくるという考えに熱中していた.彼の考えでは,このコースは,現代物理学の全分野を,その専門のいずれかを問わずすべて紹介することのできる最小限の知識を含むものでなければならない.悲劇的事故は,L.D.ランダウみずからがこの計画の実現に参加することを妨げたが,書物は,彼の死後も出版されつづけていった.
この小教程は,3部冊からなる.すなわち,1.力学・電磁気学,2.量子力学,3.巨視的物理学.
ここに上梓される第1冊は,われわれの「力学」と「場の古典論」の念入りな簡縮を主要な内容としている.この際,わたくしはL.D.ランダウが生前この書物の出版についての予備討論の中で表明し,またモスクワ大学での講義プランについて多年わたくしに説明してくれた考えを十分に取り入れるように努力した.特に,レフ・ダヴィドヴィチは、このような小教程では一般相対性理論におよぶ必要がないと述べている.彼の意見では,この理論の基本的な物理的概念とその結論は一般物理学コースで説かれなければならないが,その数学的展開の全体を述べることは,専門的な理論家以外には不可欠とはいえない(少なくとも現在では).
大教程の2巻のなかの取り残される材料は2倍になる.この小教程では,理論物理学の数学的方法の全部をカバーしようというのではないので,この書物では小数の比較的簡単で本文の説明に役立つ問題のみを残した.
1968年5月
E.M.リフシッツ
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以上が、小教程のまえがきである。
ランダウほどの人でも、一般相対性理論では、苦労したのだと、分かる。
でも、時代は、リーマンの19世紀でも、ランダウの20世紀でもない。
21世紀において、多様体の、見事な教育的配慮の行き届いた本が現れ、一般相対性理論であっても、大学の理系の学生なら、学べるようなところまで来た。
ランダウの本を、現代化して、以前から数学的に厳密だという誉れの高いこのシリーズを、完璧なまでに、数学的に洗練されたものにしようと思う。
第3版のまえがきや、ランダウの伝記も、残っているが、少し、本文に、入ってみよう。
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CHAPTER I
THE EQUATIONS OF MOTION
-
One of the fundamental concepts of mechanics is that of a .†
†Sometimes called in Russian a .
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訳すと、
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第1章
運動の方程式
§1.一般化座標
力学の基礎的概念のひとつは、点粒子†というものであろう。
†(ロシア語では)質点と呼ばれることもある。
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大教程によると、
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第1章 運動方程式
§1.一般座標
質点の概念は力学の基礎概念の1つである.*
*《質点》の代わりにしばしば《粒子》とよぶことがある.
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となっている。
注釈は、英語版では、『†(ダガー)』になっているのだが、日本語訳では、大教程も小教程も、数字を振って、1),2)などと、なっている。
このブログでは、全部、分解するので、いくつもの注が、混在することはないと思われるので、『*(アスタリスク)』で、置き換えることとする。
それでは、小教程では、
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第1章 運動方程式
§1.一般化座標
力学の基礎概念の一つは質点の概念である。*
*《質点》の代わりにしばしば《粒子》とよぶことがある.
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多少の日本語の揺れはあるが、許容範囲内だろう。
『質点(しつてん)』というものの説明が、以下で、展開されることになるが、今日は、ここまでとしよう。
最後に、大教程の英語版が、青空文庫になっているので、リンクを張っておこう。
ランダウ=リフシッツ理論物理学教程『力学』第3版archive.org
本の下の、右や左の矢印で、ページをめくることができる。
それでは。
現在2018年12月21日16時13分である。おしまい。